炎天下、久しぶりに海が見たくなり、香櫨園浜へ足を運びました。そこで出会ったのが、白い花を静かに咲かせるハマユウです。どこか懐かしいその姿を見てと、遠い昔の風景や音が、潮の匂いとともにゆっくりとよみがえってきます。
幼いころ、この花はすでにここに咲いていました。この海岸は阪神間でも水のきれいな海水浴場で、夏になると多くの人々が訪れ、白い砂浜は賑わい、さざなみの音がやさしく耳を満たしていました。まだ小学校にプールがなかった時代、私たちは先生に引率され、この浜まで泳ぎに来たことがあります。男の子は皆ふんどしを締めての水泳指導です。そのふんどしは縁側のミシンで母が縫ってくれた手製のものでした。その光景は今もはっきりと胸に残っています。またある日、年の離れた従兄弟に連れられて来たときのことです。彼は釣りに夢中になり、私は浮き輪で海に入っていました。気づかぬうちに沖へ流されてしまいました。声も出せず必死に泳ぎ、ようやく岸にたどり着いたときの恐怖は忘れられません。
ハマユウは球根で命をつなぐ多年草で、長い年月を生き続けます。人々の思い出を宿すかのように、今年もまた真っ白な花を咲かせてくれることでしょう。潮風に耐え、堤防の下でしっかり根を張る姿に、静かな力強さを感じた夏のひとときでした。
(取材地 西宮市香櫨園浜)
絵・文 田中基信