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友人に起きた奇跡

 友人のKさんと連絡が取れなくなった。短大時代から仲良くしている6人の仲間の一人だ。彼女は高齢の父親と二人で暮らしていたが、家にもいなければ、電話も携帯もつながらない。かかりつけの病院に問い合わせても個人情報は一切教えてもらえず、警察も手を貸してくれない。クリスチャンの友人と彼女の無事を祈りながら、ただ待つしかなかった。

 連絡が取れなくなって1か月余りがたった頃、「FAXを見た」と親戚の方が電話をくださり、それまでの経緯がわかった。GWにお父さんの運転する車に同乗してお墓参りに行った帰り、ガードレールにぶつかり、それからずっと集中治療室にいるという。顔面損傷と腎臓破裂という大けが。まだ面会はできなかったが、命に別状はないと聞いて涙が出た。それから10日程経って面会が可能になり、私たちはお見舞いに出かけた。

 久しぶりに会ったKさんは、まだ車椅子だったが元気だった。顔面に受けた酷いダメージは形成手術によって全く分からなくなっていて驚いた。しかし腎臓の機能は元通りになる見込みがなく、腎臓につないだチューブは一生はずせないだろうということだった。その後容態は一進一退を繰り返し、肝硬変も患った。しかし病院ではもう治療することがなく、まだすっかり元気にならないままに退院が決まった。事故から5か月後の事である。後でわかったのだが、彼女のお父さんは事故が原因ですでに亡くなられていた。たった一人の肉親を亡くしたと知った彼女の悲しみはいかばかりだったかと思う。家に戻っても一人で生活できる自信がないというので、回復病棟のある病院に転院することになった。その2か月後、奇跡が起こった。腎臓が少しずつ機能するようになり尿が出るようになったのだ。肝臓も、定期検査は必要なものの日常生活には問題のないレベルにまで戻ったという。

 事故直後は、元通りの顔に戻るかどうか、また普通の生活ができるかどうかもわからないと主治医の先生が言ったそうだ。その彼女が、今はゆっくり湯舟につかることもできるし、一人で歩いて買い物にも行けるようになっている。

 そして、神さはもう一つ彼女にプレゼントをお与えになった。Kさんは、若い時に母親と弟を相次いで癌で亡くしている。心労と看病で恋愛や結婚の機会を失ってしまっていた。その彼女に、今パートナーができた。彼女が以前からしていたボランティアの仲間で、彼女と連絡が取れなくなっていた時も、頻繁に携帯にメッセージを送ってくれていたのだ。彼女の事故を知って以来、その人は親身になって彼女に寄り添い、励まし、退院後も家の片づけを毎日手伝いに来てくれたという。何より一人でお正月を迎えることにならなくてよかった。楽しそうなKさんの話を聞くのは嬉しい。幸せになってほしいと心から願う。

 

S.F