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「半世紀 ずっと恋い焦がれて」 

田中基信

 

「半世紀 ずっと恋い焦がれて」 

 今もあるのでしょうか?初めてゴクラクチョウカを見たのは、真夏の甲子園球場の前でした。炎天下、道路の植え込みに咲き誇るこの花に魅せられたのです。まるで熱帯雨林の茂みに降り立った鳥たちを連想させられました。図鑑で名前を調べ、「ゴクラクチョウカ」と分かったのは私が中学生の頃でした。もう半世紀以上も前の出会いです。この時からずっとこのゴクラクチョウカという花が気になっていました。

 

 数年前、池田市の温室でこの花と対面し、やっとスケッチする機会ができました。ところが、どうにも絵になりません。というのもその原因はこの花の大きさにあるのです。ゴクラクチョウカは大人の掌よりも大きな花です。そして、葉は私の二の腕を凌ぎます。四つ切りの画用紙では、この花のエネルギッシュな姿を描き切る事が出来ませんでした。

 

 転機は突然訪れます。健康診断で笹生病院に行った時、廊下にかけられた大きな絵に惹きつけられました。清水操の海の青に出会ったのです。「そうだ!アフリカの海を描けば、花たちも喜んでくれるに違いない!」

無論、南アフリカに旅行したことは、ありません!そこで、ネットから写真を引っ張り出してきました。波をニードルで少しずつ少しずつ削り出していくことにしました。この作業はとても根気のいる仕事です。しかし、この作業に引き込まれて行けばいくほど、自分もまたこの海岸に立っているような気持ちになって来ます。絵の魅力は、このように全く知らない世界に誘ってくれる事なのです。

 

 さて、誘われるままに最後の引っ掻きを入れた頃には、何だかここが、懐かしい憧憬の地のような心持ちになってきました。それと同時にゴクラクチョウカも絵の中でやっと呼吸し始めたのです。

 完成も間近、パステルの先生からこんな指示が出されました。「絵の中に風を感じさせましょう!」

私の好きな歌に「千の風になって 」秋川雅史があります。この絵の中に風を吹かせるならこんな風がいいですね。

千の風に/千の風になって/あの大きな空を/吹きわたっています/千の風に/千の風になって/あの 大きな空を/吹きわたっています/あの 大きな空を/吹きわたっています。

 

 風には国境はありません。風のように自由自在に、光のように暖かく、鳥のように軽やかに幸せを運ぶ風を吹かせる事ができればどんなに素敵でしょう!

今回、先生から頂いた課題は、今の私にとってはとても難しいものでした。それでも、風のイメージを自分なりに模索しているうちに、この課題を自分のものにできそうな予感はしてきました。今はその力はないけれど自分が描いていくべき方向が示されたのです。

 

「星の王子様」の中にこんな言葉があります。

「本当に大切な物は、目には見えないんです」

風は誰の目にも見えません。ですが、確かにそこにあります、そして感じる事ができるのです。このように五感で感じ取る事ができるのであれば、目には見えなかった風をも描けるはずです。この絵には、まだそのような優しい風が吹いてはいません。未完成なのです。でも、額縁に入れて壁にかけました。毎日、ソファーに腰を落として眺めます。筆を持たない時もこうして「風」を意識しながら眺めています。このように眺めることが次へのステップとなるのです。

 

 いつかこの絵の中に風を描きこむことのできるその日を楽しみにしながらゆっくりと眺めることにしましょう。

でも 後 「半世紀・・・・・は?」到底、無理でしょうね!

田中基信

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