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ここ蒜山高原の冬はとても厳しいのです。時には腰までの雪が一晩で積もることもあるのです。そんな時、わずか15分ぐらいの道のりを「大丈夫だ」と過信してはいけません。そんな夜道を一人歩いた事がありました。
新雪に足を取られて膝が上がらないのです。大学の先輩から新雪の中は、泳ぐように歩け!とアドバイスを受けたことを思い出して必死で歩き続けました。しかし、20分歩いたのに振り返ると出発点から僅かしか進んではいません。おまけに雪も降り出してきました。このまま、心臓発作でも起こしたら雪の中で春まで見つけられないのでは・・・と思うほどの恐怖を感じたのです。
船底一枚地獄と日本海の漁師は言われるのですが、ここではドア一枚隔てると死がそこにあるんだなと実感しました。こんな冬を耐えて生活しているからこそ春の陽光が眩しいのです。
3月下旬、まだ高原は一面雪に覆われてはいます。しかし、雪の上に描かれた桜の巨木の影の中にずっと待ちわびてきた春のカケラを見つけて心が踊りました。この絵の中に、キュンとしたその感覚、春の訪れを喜ぶ雪国の人々の心を表現したいと描きました。
田中基信