「石垣に広がる小宇宙」
山道を歩く途中、古びた石垣の隙間に咲く小さな花たちに足を止めた。苔むした石の重みに寄り添うように、レンゲやカラスノエンドウはまるで着飾った貴婦人のように花びらを風に揺らす。誰に見られるわけでもないのに、自らのかたちを精いっぱいに広げている。
冷たい石肌が、かえって花の鮮やかさを際立たせる。何十年も積み重なった石の間から、季節ごとに芽吹き、春の陽光を受けて命を謳歌する。その姿は、まるで夜空に瞬く星々のようだ。ここには偶然と必然が織りなす、小さな宇宙が広がっている。
人の手で整えられた庭園ではなく、ひとつひとつの植物たちの営みが重なり、ひそやかな美しさを生む自然の風景。足元の命に心をほどかれ、私は深く息を吸い込んだ。そして、その輝きを胸に刻みながら、次のひだまりへと歩き出した。
(取材地 鳥取県倉吉市)
絵画・文 田中基信