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錦秋の忘れ形見


 これは、ぼくが何十年も前から焦がれ続けてきた植物、カラスウリです。初夏の夜、闇の中に浮かび上がるレースのような白い花は、そのあまりの繊細さに、自分には描けないと長い間封印してきました。花にさえ滅多に出会えないのですから、秋に真っ赤な実を結んだ姿となると、なおさらでした。「来年こそは」と願いながら、季節を何度も見送ってきました。

 

 転機が訪れたのは昨年の秋です。能勢温泉へ向かう山道で、ぼくはついに真っ赤に色づいた実を見つけました。しかし、その時は写真を撮ることができず、鮮やかな朱色だけが心に残りました。

 その後一週間、あの実が忘れられず、週末になると再び能勢へ向かいました。目的は温泉ではなく、あのカラスウリにもう一度会うためでした。記憶を頼りに何度も車を走らせ、ようやく見覚えのある場所にたどり着くと、枯れ始めた草むらの中で、小さな提灯のような実が秋風に揺れていました。

 十一月も終わり、野山から色彩が消えようとする頃、その鮮烈な朱色は、自然が最後に残してくれた錦秋の忘れ形見のように映りました。偶然を待つだけでは、この出会いはありませんでした。自ら足を運び、探し続けたからこそ得られた再会でした。

 

 キャンバスに描いたカラスウリを見るたびに、あの山道で胸が高鳴った瞬間と、自然が与えてくれた小さな奇跡を思い出します。

(取材地 大阪府能勢温泉付近)

絵・文 田中基信

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